日本ミャンマー交流協会 AJMMC:

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豚目と白内障手術

 

超音波乳化吸引装置Pig Eye training(1).jpgを用いた白内障手術の方法を、ミャンマーに初めて紹介した藤田善史医師(※同医師は、徳島市内にある藤田眼科の院長を務めるほか、今は徳島大学医学部眼科臨床教授及びマンダレー医科大学眼科名誉教授などに就任)をリーダーとする眼科医療支援チームは、この白内障治療技術をミャンマーの眼科医に移転するために様々な工夫を行なってきた。そのひとつが豚の目を使った手術の指導と訓練である。専門的なことは判らないが、最初にそれを使って指導が行われたときに先乗りしていたので準備段階から体験することになった。 

用意した豚の目を眼科支援チームの関係者(記憶では元参天製薬の竹内氏)が日本から持参した眼球部分が空いた発泡スチロール製の顔面マスクの眼の部分において、訪緬した日本人医師の指導を受けながら術技の訓練を行うというもの。この準備を行ったのが、アルコン(Alcon)のミャンマー代表(当時)だったカウン・サン・ルウィン(Kaung San Lwin)氏(※上写真右端。同氏の手前におかれているパックの中に入っているのが豚の目)。この時は超音波乳化吸引装置と手術用顕微鏡は各2セットしか用意できず、反面、希望する眼科医が多く、全員が終わるまで相当な時間が費やされたが、藤田先生たちは最後まで丁寧に指導されていた。

しかし、この指導が実現した影の功労者はカウン・サン・ルウィン氏である。ミャンマーで豚の目を集めることは少なくとも当時は簡単なことではなく、また、集めた目を新鮮なまま保存しておくのも容易なことではなかった。

Pig Eye Training (2).jpg

実際、事前に彼と会った時には本当に困った表情をしていた。彼は医学部を卒業しており医薬品や医療機器などについては専門家であるが、それ以外のことはあまり知らない。だいいち、どこにいけば豚の目を入手できるのかすら判らないのである。また、熱心な仏教徒であり屠殺の現場はもちろん見たことはなく、むしろ忌避するのが一般であり、まして眼球などを欲しがるひとはいない。相談しても変な顔で見られるし、眼科手術の訓練に使うといってもなかなか信用してもらえない。手配できたとしてもそれを新鮮なまま保つのはさらに難しいため、できれば指導が行われる前日か当日に集めないといけないというプレッシャーもある。

 我々もサポートのしようがない。悲しそうな表情に見えたので無理かも知れないと思ったが、当日にはたくさんの豚の眼が集まっていた。どこでどうやったか何も話してくれなかったが、嬉しそうだった。おかげでこのとき初めてたくさんの眼科医たちが実際の機器を使って指導を受けることができた(写真は、来日しての眼科医療研修プログラムで初めて来日して約1ヶ月間に亘り、藤田眼科を中心に指導を受けたミャンマー人眼科医Dr.Kyaw Soeからアドバイスを受ける女性専門医)。 

 10月の第二木曜日(10月13日)はWHOが定めた失明対策のためのWhite Cane Dayであり、その記念式典で挨拶にたった保健大臣Dr. Pe Htet Khinは、以下のようなスピーチを行っている(New Light of Myanmar: 2011年10月14日から抜粋)。 

 「WHOは、世界では約3億1400万人が視力低下に悩み、4500万人が失明しており、その失明者のうちの約80%が適切な治療を受ければ治癒可能な状況にあったとリポートしている。失明者の約90%がミャンマーを含む開発途上国に生活している人たちである」。「白内障はミャンマーではごく普通の眼科疾病である。統計資料によれば、ミャンマー国内の失明率は0.6%であるが、そのうちの68%、人口にして約20万人以上の失明は白内障を原因にしている。今は保健省の指導のもと、篤志家たちが白内障の無償手術を支援してくれている。白内障で苦しむ国民のほとんどは高齢者であり、保健省は国民の眼科ケアサービスのため白内障手術の普及をますます促進させるつもりであPig Eye Training (4).jpgる」。また、「眼科ケア・サービスを発展させるため、(医学大学において)さらに多くの眼科の開設と専門医の養成、必要な機器や手術用顕微鏡の購入と提供をはかるつもりである」。「国際機関や民間関係者などの毎年の尽力のおかげで、白内障手術の割合は2010年には100万人につき1,457人に増加した。この数字は、2006年の853人に比してかなり増加しているほか、国際的にもインドネシアの(100万人中-以下同じ)468人,カンボジアの749人、中国の1,160人、ラオスの627人、インドの6000人に比しても少ない数ではない」。(写真はミャンマーの眼科医を指導中の藤田先生)